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代  表 帰山雅秀
事務局長 後藤 晃

〒066-0028
北海道千歳市花園2-312 
千歳サケのふるさと館

電子メール

サンルダム建設継続に関する意見書

サンル川のサクラマスとカワシンジュガイは世界の貴重な自然遺産

国土交通省大臣  羽田 雄一郎 様
環境省大臣   長浜 博行 様
国土交通省北海道開発局長 関 博之 様
北海道知事   高橋はるみ 様


このページでは前文のみ掲載しています。
意見理由を詳述した全文はこちらをどうぞ PDF 399KB


 北海道淡水魚保護ネットワーク(代表 帰山 雅秀)は、北海道の淡水域における在来魚類の保護と自然生態系を保全することを目的に、2001年4月に研究者、報道記者、フリーランサーなどによって結成された任意団体です。本ネットワークは、これまで基本的に毎年1回、「河川環境の保全」、「川の豊かさを再生する」、「希少淡水魚類の保護」、「魚の放流を生物多様性から考える」等のテーマで北海道の各地においてフォーラムを開催してきました。

 このような視点に立って北海道の在来淡水魚類と自然生態系の保護・保全に関わる活動を行う動機と理由は、次のような河川生態系についての理解の進歩とその近年における急激な変化を目の当たりにしてきたことにあります。すなわち河川生態系は、魚類や水生生物などの生物生産の重要な場であると同時に、それに隣接する陸域生態系と海域生態系の相互作用を仲介する働きをもちます。つまり河川生態系は、陸域から供給された物質(砂礫やN、P、Feなど)を海へ運搬して、沿岸の生物にとって不可欠な栄養塩を供給し、沿岸生態系の生物生産量を高める役割を果たしています。一方、海から陸への作用も重要です。産卵のために海から母川に回帰するサケ属などの遡河回遊性魚類は、海洋由来の栄養塩などを河川にもたらし、さらに哺乳類、鳥類、水生昆虫などを介して陸域へと運搬されることで、河畔林の成長を促進するなど、陸域生態系の生物生産量と生物多様性を増大させます。

 しかし、1960年代以降における国土の過度な開発行為は、わが国の海岸総延長の40%強をコンクリートブロック等で補強した人工海岸に変貌させました。自然海岸が豊かであるといわれる北海道においてさえ、海岸総延長3、142kmのうち人工海岸は25%を占めるに至っています。これらのことは、陸域から河川を通しての土砂礫の供給が絶たれ、供給と浸食のバランスを失った海岸線が全国的に後退していること、またそれを防ぐために大規模な土木工事が必要になったことを意味します。そして、そもそも土砂礫の供給障害は、ダム等の河川横断工作物の建設という、大規模で全国的に実施された土木工事がもたらしたプロセスであることを私たちが学びました。北海道では、大規模な河川土木工事と多数の河川横断工作物の建設は河川生態系の急激な劣化と単純化をもたらし、そこに生息する淡水魚類の多様性を著しく減少させました。その結果、北海道に生息する在来の淡水魚は55種を数えますが、そのうち保護を必要とする絶滅危惧種などが21種、留意種が7種に及び、実に過半数以上の種が何らかの保護を必要とする状態になりました。

 こうした北海道の淡水域における自然生態系の変遷の中で提起されたのが、天塩川水系サンル川に大規模なダムを建設する計画です。その目的は、北海道開発局の天塩川水系河川整備計画のホームページによると、1)洪水調節、2)流水の正常な機能の維持、3)水道用水の確保、4)発電とされています。つまり、この地域に100年に1回起こるとされる洪水による被害を防ぐため、農業用水・都市用水を安定的に供給するため、下川町と名寄市に新規に水道水を供給するため、およびサンルダム建設に伴って新設するサンル発電所において最大出力1、000キロワットの発電を行うために必要であるとされています。この計画に対して、北海道淡水魚保護ネットワークでは2006年12月に、天塩川流域委員会委員長と同事務局宛に、サンル川の生態系保全と希少な魚介類の保護を求める立場から「サンルダム建設論議に関する要望書」を提出しました。

 この要望書には、1. 流域委員会は、慎重に十分時間をかけて審議し、科学的知見に基づき後世の評価に耐えうる決断を行って下さい。 2. サンル川のサクラマスに関する詳細な生物学的調査を事前に実施して下さい。3. 調査は再現可能な科学的方法に基づいて行うことはもちろんのこと、その調査結果を公表して下さい。4. 公的機関による河川工作物の建設にあたっては、当然実施されなければならない絶滅危惧種のカワシンジュガイ(環境省レッドリスト)の生息環境と生息個体数密度に関する事前調査をサンル川において科学的に行い、調査結果を公表して下さい。5. ダム建設が実施された場合を想定して、サクラマスおよびカワシンジュガイの個体群の保護・保全の実施方法と実施プランを事前に公表して下さい、という5項目の要望を提示しました。

 本要望書の提出から約6年が経過し、私たちはその間に行われた天塩川流域委員会での議論、また天塩川流域における魚類等の移動の連続性の確保、およびサンルダム建設におけるサクラマスの遡上・降下対策などの検討のために設置された「天塩川魚類生息環境保全に関する専門家会議」(座長 辻井逹一 北海道環境財団理事長)での議論、そこでの決定事項についても慎重に検討しました。その結果、これらの要望項目に対して、北海道における河川生態系の保全と在来魚介類の生物多様性保全に向けて、十分かつ慎重な論議が尽くされ、妥当な科学的対応策が立案され、その内容が公表されたとは決して言えない状況であると私たちは判断しました。

 例えば、サンル川の河川生態系の重要種であるサクラマスについては、河川生態系における生物間相互作用と生物多様性に及ぼす影響の度合い、および本種の遺伝的多様性と固有性に関する詳細かつ包括的な評価が行われたとは言えません。それにも拘わらず、大規模な魚道の設置によって「環境保全処置をとることでダムによる在来動物への影響を最小化する」ことが可能であるとの判断がなされました。しかし、在来動物の生息状況の把握、予想される影響の評価、そしてその影響の最小化の定義がいずれも不透明なままで行われた判断に、科学的な説得力はありません。

 また、サンル川には底生動物ではもっとも長い寿命をもち、環境省のレッドリストにおいて絶滅危惧種に指定されているカワシンジュガイ属2種(カワシンジュガイとコガタカワシンジュガイ)が生息しています。この淡水二枚貝類は、それぞれサクラマスおよびアメマスとの種特異的な宿主-寄生関係によってのみ生存可能であり、サンル川ではサクラマスとともに河川生態系における生物間相互作用の根幹を担う種です。このカワシンジュガイ属2種の保護保全を、移殖などに依存した手法で達成できるかどうかには大きな疑問があり、サクラマスおよびアメマスの保全を含め、これら2種が生活史を全うするために必要な生息環境に関して、科学的再現性のある調査研究をさらに積み上げることが望まれます。

 このような重要な検討諸課題が残された状況の中で、本年9月21日に開催された事業審議委員会(委員長 萩原 亨・北海道大学大学院工学研究院教授)においてサンルダム建設継続を妥当と判断されたこと、その後、10月29日に開催された国土交通省の「今後の治水のあり方に関する有識者会議」でサンルダム建設継続が了承されたことはきわめて遺憾であり、将来に禍根を残す誤った判断であると言わざるを得ません。世界的に生物多様性の重要性が叫ばれ、行き過ぎた河川開発行政が批判される中で、今回のサンルダム建設計画はその流れに逆行するものではないでしょうか。サンルダムが、日本の最北の地に残された貴重な自然生態系と生物多様性、またそれらがもたらす生態系サービスの著しい低下や損失を招くことは必須です。我が国は「生物多様性条約」を締結しており、生物多様性の保全に対する国際的責務があります。また、「生物多様性国家戦略」を策定し国家として生物多様性保全に取り組むことを掲げています。さらに、北海道においては、「北海道生物多様性保全計画」が策定され、現在、その条例化が進められています。したがって、国際社会、日本国民、北海道民との重大な約束事である生物多様性の保全について、その具体策がほとんど提示されないままサンルダム建設継続を妥当としたことは極めて重大な問題であると言わざるを得ません。このような状況の中で建設されるサンルダムは「無駄なダム」であるどころか、北海道の負の遺産になるとたいへん危惧されます。

 北海道淡水魚保護ネットワークは、こうした状況に鑑みて、サンルダム建設の継続開始に先立ち、再度、サンルダム建設に伴う河川生態系への影響に関する科学的な評価を再度行うこと、およびサンル川生態系の重要種であるサクラマス・アメマスとカワシンジュガイ属2種についての実効性のある保護・保全手法とその実施計画を科学的知見に基づいて検討することを強く要請します。

平成24年11月30日
北海道淡水魚保護ネットワーク代表 帰山雅秀(北海道大学大学院水産科学研究院教授)


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