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第9回北海道淡水魚保護フォーラム

サケは海からの贈り物

-生態系をベースとした川の生き物の持続的保護に向けて-

帰山 雅秀(北海道大学大学院水産科学研究院)

帰山雅秀

かえりやま・まさひで
昭和24年4月20日、北海道小樽市生まれ。北海道大学水産学部卒業、水産学博士。IUCNサケ専門家会議委員、PICESタスクチーム委員、知床世界自然遺産科学委員会委員など、会議にふりまわされる毎日。地球温暖化と食料問題、地球生態系へのヒューマンインパクトに興味を持ち続け、人類が生き残るために、サケ科魚類をキーストン種として水圏生態系の持続的保全につとめたいと考えています。主な著書は「最新のサケ学」、「サケ・マスの生態と進化」(共著)、「魚のエピソード」(共著)など多数。

http://www.fish.hokudai.ac.jp/kyoukan/kaeriyama.htm


 北海道の淡水在来魚55種のうち、現在、保護を必要とする魚は21種、留意種は7種を数えます。その他に、外来魚がなんと35種(国外23種、国内12種)もいて、IUCN(国際自然保護連合)が定めた侵略的外来種ワースト100のうち4種がすでに北海道に侵入しています。ふるさとの川、北海道の淡水魚は今どうなっているのでしょう? ふるさと北海道の魚はサクラマスと言われていますが、そのサクラマスは今どうなっているのでしょうか? 北海道立水産孵化場のデータによると、1970年代に著しい減少を示したサクラマスの資源量は、1980年代に一時下げ止まり傾向が見られましたが.その後、特に1990年代後半以降、再び著しい減少傾向を示しています。

 最近、河川環境の復元を名目にコンクリートで数多くの魚道が作られています。確かに、一時に比べると魚類の河川通過が少しは良くなってきたようにみられます。しかし、ダムにおける魚道は河川の中で「点」でしかなく、生態系を守るという概念にはほど遠いものです。また、魚道設置を美辞麗句にそれ以上のダムが造られようとしています。もちろん、1970年代までに改悪された河川生態系の形態(蛇行を直線化するショート・カット、河床掘り下げ、ダム建設)は未だに基本的に変わっていません。誰が川を、北海道の淡水魚を守るのでしょうか?

 北海道の河川は、このように魚類の生息場と産卵場が失われています。特に本流と支流や枝川との段差が著しく、魚類の分布と移動が隔離されています。その結果として、魚類は河川において不連続なパッチ状にしか分布できず、ボトルネック効果(他と隔離された小さな群れの中で遺伝的な多様性が徐々に低下すること)による遺伝的多様性の低下も観察されています。

 本来、河川は海洋の生態系と陸域の生態系をつなぐコリドー(回廊)としてのはたらきを持ちます。それを維持するのが魚類であり、とりわけサケ科魚類の果たす役割は大きいとみなされています。これまで、北海道の淡水魚を守るために、生態系をベースとしたサケ類の持続的保護管理をうったえてきました。

 その中核となるのが予防原則と順応的管理からなるリスク・マネージメントです。予防原則というのは、1992年の地球サミットで採択されたリオ宣言の一部ですが、「環境を保全するために、重大な、あるいは回復不能な損害の経緯がある場合、十分な科学的根拠がないことを理由に、費用対効果の高い環境悪化防止対策を先延ばしにしてはならない」というものです。要するに、わが国の河川環境のように危機的な状況にある環境の改善を先延ばしにするなということです。

 順応的管理とは、ある環境あるいは生態系(例えば、河川生態系)の管理計画を実行する場合、まず徹底的に現状分析を行い(モニタリング)、それに基づき管理計画を立て(モデリング)、その計画の実施を常にモニタリングしながら状況の変化に応じて対応を変え、モニタリングとモデリングのフィードバックにより、管理計画の妥当性を検証していく方法です。この方法では、実証されていない管理計画にはリスクが伴うわけですから、十分な合意形成と説明責任が伴います。現在の河川管理においてこの合意形成と説明責任は十分に行われているでしょうか。またフィードバック機構が働いているでしょうか。

 さて、このような予防原則と順応的管理からなるリスク・マネージメントのアクションプランとして次のような項目が挙げられます。

1. 生物モニタリング:実際に河川に生息する生物(魚類)がどのような状態になっているかを常に把握します。具体的な項目としては、次のようなものが考えられます。環境収容力(魚の住める器の大きさ)、密度依存効果(魚の人口学のようなもの)、繁殖形質(親魚の大きさ、年齢、卵の数と大きさなど)、遺伝形質(集団として有効な大きさ、遺伝子の状態など)。

2. ゾーニング:河川毎(大きな河川の場合は、支流毎)に、例えば野生の魚を守る自然河川、人工孵化放流事業により漁業資源をつくる孵化場魚の河川、エコ・ツーリズムや釣りのための多機能河川のように目的に応じて、河川の管理形態を多様化させる。

3. 淡水在来魚と自然生態系のリカバリー:これが最も大切ですが、魚の住める川づくり、野生サケ類の復活、人工孵化放流事業の見直し(特に河口にある捕獲場の見直し)、保護河川制度の見直しと充実、侵略的外来種対策などが考えられます。