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第8回北海道淡水魚保護フォーラム

魚の住める川への自然再生

中村 太士(北海道大学大学院)

中村太士 (Futoshi Nakamura)
1958年愛知県名古屋市生まれ。北海道大学大学院農学研究科終了。農学博士。 1990年~92年まで米国森林局北太平洋森林科学研究所に留学。 2000年より現職。森林と川のつながりを土地利用も含めて流域の視点から研究している。再生事業では、釧路湿原、標津川で中心的な役割を果たし、知床世界自然遺産科学委員会の河川工作物ワーキング座長としても活躍している。学会および社会的活動も幅広く、林学、工学など応用分野のみならず、地形学、生態学といった基礎分野でも活躍している。Geomorphology、Landscape and Ecological Engineering等の編集委員、中央環境審議会委員、日本森林学会理事等をつとめる。2005年日本森林学会賞受賞。著書は「水辺域管理-その理論・技術と実践」、「流域一貫」など多数。北海道大学大学院農学研究院森林生態系管理学研究室教授

 


 釧路湿原、標津川、知床世界自然遺産区域など、北海道における河川と氾濫原の自然復元計画にたずさわり、多くの難題に直面している。

 一つは河川生態系の現状評価である。残念ながら、日本ではこうした解析方法が発展しておらず、評価結果も地図化されていないことが大きな問題である。現状の生態系評価ができないならば、保護や保全・再生の検討はできないと言っても過言ではない。このプロセスはいわばスクリーニングの段階であり、医学で言えば集団検診に当たる。つまり、流域のどこが病んでいるのか、どこに健全な生態系が残されているのかを最小限の情報から評価する生態系診断が必要である。さらに、流域全体が変貌してしまった現在、河道の一部区間のみの生態系を復元することが現実論として可能かどうか。多くの問題は流域の累積的効果によって発生している場合が多く、一部区間のみの対応では限界があるのも事実である。

 もう一つは、現在の生態系で定着し、生息している希少な植物種、動物種の問題である。釧路湿原でも標津川でも、河跡湖のような特殊な環境に依存する希少な植物や動物が必ず発見される。こうした希少種(時に絶滅危惧種)は、底泥を除去したり通水することにより、消失する可能性は高い。復元計画においてこうした種の存在をどう取り扱ったら良いか。

 スイス・ドイツで実施されている河川再生事業の説明を聞く限り、詳細な設計図は描かれていない。一方、日本では自然再生事業でも細かな設計図が描かれ、それに忠実に施工される。川の設計は、「川がみずから行い、人間はあくまでも舞台づくりをめざす」が原則であり、受動的再生(passive restoration)が重要であるといわれる。それにもかかわらず、道路や橋の設計と同様に川の設計が行われている現状は、なんとかならないだろうか。そのためには、会計検査等の仕組みのみならず、設計図を渡して施工業者が事業を実施する仕組みも変えなければならない。設計者と施工者が完全分担作業にならずに、現場で協働し、状況に応じた完成形をめざす仕組みが必要である。また、そのためには設計者は自然の仕組みを熟知した匠でなければならない。

 モニタリングについても問題は多い。インベントリー調査と同義に扱っているケースが多い。順応的管理によってモニタリングが実施されている例はよく知っているが、モニタリング結果にもとづいてフィードバックがかかり、技術改良された事例を知らない。これまで実施されてきたモニタリング調査の大きな問題は、調査結果の評価方法をモニタリング調査開始前に検討せずに、調査項目を適当に決めている点である。これは、「献立やレシピを決めずに材料を買いに行く」に等しく、あまりに無駄が多い。深刻な場合は、評価するために最も重要な調査項目が欠落していて、現状のデータでは何も言えない、などの事例も多く存在する。

 以上のような視点から,パネルディスカッションに参加したいと思う。