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第8回北海道淡水魚保護フォーラム

知床半島から北海道の淡水魚と河川生態系を考える

帰山 雅秀(北海道大学大学院水産科学研究院海洋生物資源科学部門資源保全管理戦略分野教授)

帰山雅秀 (Masahide Kaeriyama)
昭和24年4月20日,北海道小樽市生まれ。北海道大学水産学部卒業、水産学博士。今年はIPYということでチュクチ海北緯71度に到達,最北端記録更新。最近フィールドへ出るチャンスが著しく少なくなってしまった。これも年のせい? IUCNサケ専門家会議委員,PICESタスクチーム委員,知床世界自然遺産科学委員会委員など,会議にふりまわされる毎日。地球温暖化と食料問題,地球生態系へのヒューマンインパクトに興味を持ち続け,人類が生き残るために,サケ科魚類をキーストン種として水圏生態系の持続的保全につとめたいと考えています。主な著書は「最新のサケ学」,「サケ・マスの生態と進化」(共著),「魚のエピソード」(共著)など多数。

 


 生態系は,複雑かつダイナミックで不確実性の高いシステムです。生態系の機能と構造は,非生物環境と生物との相互作用,生物多様性からなります。河川生態系は,本来,魚類や水生動物などの生物生産の重要な場であると同時に,海洋生態系と陸域生態系の回廊(コリドー)として両生態系の相互作用の場でもあります。陸域の物質(土砂や栄養塩)は重力の法則に基づき河川から海洋へ運ばれ,海岸をつくり,海で魚を育てます。一方,遡河性回遊魚のサケ属魚類(Oncorhynchus spp.)は、産卵回帰することにより陸域生態系へ生物多様性と物質輸送としての役割を果たします。このような系は,ロシアや北アメリカ大陸では普遍的に見られますが,わが国では知床半島の河川群や遊楽部川などきわめて限られた地域でしか観察されません。知床半島の世界自然遺産地域内には急峻な小河川が多数あり、これら河川に産卵遡上するサケ属魚類はヒグマ(Ursus arctos)などにより越冬用餌として利用されるばかりでなく、有機物質として陸域生態系へ運搬されています。ここでは、まず遡河性魚類が知床半島ルシャ川周辺の生態系の動植物に及ぼす影響について紹介します。

 つぎに,北海道全体の河川における在来種と自然生態系の現状についてお話します。北海道の河川は,ショートカット,河床掘り下げや三面ブロック化などによる河川工事とダムなど数多くの河川工作物により,1970年代終わり頃までに魚類の生息環境としてはきわめて劣悪な状態へと変わりました。このような河川工事や河川省略型のシロザケ人工孵化放流事業は野生サケ科魚類(Salmonidae)を著しく減少させ,河川生態系における物質循環の系を切断させてしまいました。河川に生息する魚類が少ないのは,魚が住める環境がそこに無いからに他なりません。現在,北海道の河川に生息する魚類は,生息場や産卵場所が損なわれ,さらに河川工作物や本流と支流の段差により隔絶され,不連続にパッチ状にしか分布できず,ボトルネック効果により遺伝的多様性を著しく低下させています。そのように疲弊した河川生態系と在来魚に追い打ちをかけるように,世界コスモポリタンの侵略的外来種が侵入してきています。

 このような現状を紹介した上で,最後に,今後の北海道の在来種と自然生態系,特に河川生態系の再生について考えていきたいと思います。