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第5回北海道淡水魚保護フォーラム

稗田 一俊 (ひえだ かずとし)
 NPO地域学習センターゆーらっぷ理事


写真1. 見市川の砂防ダムと河床低下・河岸崩壊.
 遊楽部川の支流でサケの産卵を撮影しているが、今から20年くらい前までは川底にできた窪み「サケの産卵床」にたくさんハナカジカが集まってきた。サケが掘り起こすと別のサケが産み落していた卵がはじき出されるから、これを食いに集まって来ていたのだ。ウグイだって群れをなして卵を食っていた。しかし、今はハナカジカもいなければ、ウグイすら来ない。サクラマス、フクドジョウ、ウキゴリ、スナヤツメも姿を消してしまった。

 川水が悪くなったわけでもない。当時と変わらぬ水質だ。水がきれいなのに魚がいなくなる。では何が変わったのか。ちょっとした雨でも川に泥水が出るようになり、根っこ付きの流木が沿岸で漁業被害をもたらすようになった。


写真2. 落差工の下流側の河床低下

 泥水は2,3日もすればきれいになり、川水は清流を取り戻す。泥水自体自然の産物だから影響は無いと言う専門家もいるが…しかし、川底に泥水の痕跡、砂が大量に溜り、目立つようになった。川底の石は砂で埋まり「はまり石」となり、石を持ち上げても水生昆虫すら付いていないし、付いていてもごくわずかだ。不毛の川石となり果てた。
1992年には八雲町の釣り人が「おいおい、河床が下がっているぞ。釣り終って登っていた土手が崖になって上がれんくなった。」と教えてくれた。車で川を渡っていた場所が川底が深く堀下がって、もはや渡ることができなくなっていた。なるほど、河床が低下している。

図1. 河岸崩壊のしくみ.

 河床低下の視点で追っていったところに治山ダム・砂防ダムが見えてきた。例えば、サクラマス保護河川「見市川支流二股川」では、治山ダムを堺にして上流では川石は大小砂まで大きさが様々だが、ダムの下流の川石は大きな石がやたら目立ち、握り拳大の石が激減していた。つまり、サクラマスの産卵に適した石が激減し、産卵場が失われている。また、遊楽部川支流の砂蘭部川でも砂防ダムの上流と下流では同様の違いが見られる。

 川水の流速は治山ダム・砂防ダムで弱められる。従って、多くの石が流れが緩くなったダムの流入部で堆積し、ダムよりも下流へ流れる石は微細な砂や泥ばかりとなる。


写真3. 砂蘭部川・農地崩壊と再被災(その1)
 しかし、ダムよりも下流側では河床の石が持ち去られ、どんどん減少し、河床が低下を続けている。やがて、川岸と川底の落差が広がり、川岸が急傾斜になると石が転がり落ちるようになる。そこに大増水があると、川岸の石が流れになめられて抜かれるように持ち去られ、川岸が崩壊することになる。川岸の立木は根元の石が失われるために、根っこ付きで流れに倒れ込むことになる。(見市川や岩尾別川、沙流川水系全域など)これが、ダムのある川の河岸崩壊と土砂・流木の発生のメカニズムなのだ。

写真4. 砂蘭部川・農地崩壊と再被災(その2). 写真5. 砂蘭部川・農地崩壊と再被災(その3)

 さて、極端に崩壊した川を観察してみると、川底にわき水や伏流水がある場所だと解る。川底を歩いてみると柔らかいところと固く閉まったところがある。柔らかいところはわき水や伏流水のある場所だ。川底には石の間を流れる水流があり、川底の石を持ち上げているから柔らかく感じるのだ。この場所が増水時に大きく堀込まれる。災害補修工事を施しても、再被災を繰り返す場所となる。結局、河川管理者は木工沈床やコンクリートブロックを敷き詰めて、川底を固めることになる。つまり、わき水や伏流水に蓋をしてしまうのだ。これが災害補修工事・災害関連工事なのだ。

図2. 二風谷ダムは泥を選り分ける「ふるい」

 サケはわき水に、サクラマスやアメマスなど多くの魚たちは伏流水のあるところに産卵し、川底に産み落された卵は親がいなくても「石の間を流れるわき水や伏流水」にさらされて育っている。つまり、工事で再生産の場を失うことになる。また、川岸が崩壊して土砂が流れてくると、細かい粒子の砂が河床に沈殿し、石の間に滑り込むから、こちらでも石の間を流れる伏流水やわき水を遮断する。このように、ダムの影響と河川の工事により、河床から「命育む川の仕組み」が急速に失われてきた。

 河川管理者は土砂が流れるから砂防ダムを建設して食い止める。また、河床が下がらないように土砂をため込むとも説明する。だが、土砂がどこからどのようなメカニズムで流れ出すのか、また、砂防ダムの下流側への影響は調べられることは無い。河岸崩壊は大雨で川が増水したから仕方がないと説明する。また、林業では川底が下がると山裾が崩壊する(山脚崩壊)から、川底が掘られないように安定させるために治山ダムを建設すると説明する。こちらも、治山ダムの下流への影響は全く触れることはない。27年経ってもほとんど河床低下が見られず、ほぼ同じ川筋が維持されている川がある。この川には治山ダムや砂防ダムなどの砂利を止める構造物は一つも無い。

 

写真6. 苔むした川

 一方、川岸が崖となり、河岸崩壊を繰り返して川幅が広がっている川には、必ず治山ダム・砂防ダムがある。また、2004年8月10日の台風10号は、沙流川二風谷ダムの様な大規模ダムが、上流から流れ込んだ土砂から微粒径の「泥だけ」を選り分けて下流に流す「ふるい」の役割をしていることを教えてくれた。従って、大規模なダムの下流は泥水が絶えることは無いのである。
 一方、ダムのない川はいつまでも青く澄んだ清流である。この違いを是非現場で見届けて頂きたいと思う。
 ちょっとした雨で川が泥水と化すことは異常な状態である。河口から海に広がる泥水の光景を目にして、その異常さに気が付かない異常さに、今の世の中を見る思いがした。


「北海道・淡水魚保護フォーラム No.5
 「川の環境と魚の豊かさ」(2004年7月11日、釧路市) 講演要旨
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