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第3回北海道淡水魚保護フォーラム

なぜ釣り人
移植放流に依存せざるを得ないのか

橘 利器

橘 利器 (たちばな としき)
 
屈斜路湖の魚を育てる会



 今回のフォーラムのキャッチコピー「ちょっと待った! その移植放流-生物多様性への功罪」、これは釣り人にとって刺激的なコピーですね。

 確かに釣り人が移植放流を行ってきたのは事実ですが、これまで生物多様性に対して移植放流が問題となる、などと考えてきたことはありませんでした。こうした考え方は日本ではごく最近になって一般に知られるようになってきたのですから、釣り人の移植放流に罪があるというのは間違いでしょう。新しい価値観で過去を批判すべきではないと思います。

 釣り人は、川や湖で釣りをしたいから、ニジマスやブラウンを放してきたのですが、その他の放流できる魚、在来種の稚魚を手に入れることがほとんど不可能、という問題もあります。ヤマベの稚魚は手に入れることも出来ますが、放流しても期間禁漁がありますし、海に降りてしまう。上ってきたときは釣ってはいけないサクラマスになってしまいます。稚魚の価格も高いし生産量も少ないですね。アメマスやイトウなどは放流のために手に入れることすら出来ません。

 河川の魚がここまで減ってしまった大きな原因は、河川改修や森林伐採、農地開発、牧場からの汚水などであって、直接釣り人に原因のあるものは少ないでしょう。そんななかで釣りをするための移植放流は、手に入る魚を入れる、といったやむを得ない面があったことも考慮すべきです。これを逆に考えれば、河川環境を改善し、また在来種の釣りを充実させることが出来れば、移植放流に頼る必要も減っていくということでもあり、それは結果として在来種を増やすことでもあると思います。



ヤマベのシンコ釣り禁止の実験を

 一例としてサクラマスを考えます。ここでは釣り人の流儀に従って、川に残っているのをヤマベと呼び、ヤマベが海に降りて大きくなったものをサクラマス、と呼ぶことにします。ヤマベは道東では5月6月が川での釣りが禁漁です。そして春に海から川へ上ってきて、秋に産卵するサクラマスは、川に上ったら一切禁漁となっています。

 サクラマスは人工増殖が難しいこともあり、資源保護のためにこのような禁漁がとられているのですが、これはおかしいですよね。戦後の食糧難の時代ならシロサケやカラフトマスと共に、食糧増産のため、という理由での禁漁もやむを得なかったかもしれません。が、今は時代が違います。サクラマスを必ず食べなければならない、ということもありませんし、サクラマスを食べる楽しみと、川でサクラマスを釣る楽しみは、個人の楽しみ方の違いだけの問題ということも出来ます。ところが現行の保護方法では、食糧資源の保護にはなり漁業者の保護にはななっていても、釣り人の釣りをする楽しみは無視され、観光資源としての価値も考えられていません。これを両立させることは出来ないのか? 実は出来るのではないかと思うのです。

 シンコ釣りというのは小さなヤマベを大量に釣るエサ釣りです。これは現在合法的に出来る釣りですが、この釣りは資源としてのヤマベ(と結果としてはサクラマス)に与える影響が非常に大きな釣りです。そこで実験的にどこか、いくつかの川で、このシンコ釣りを止めてみたらどうでしょうか。ヤマベ釣りはギンケヤマベが降りきるまで春から完全に禁止とする、またはヤマベの周年全面禁漁河川もあって良いと思います。その代わり川に上ってきたサクラマスを条件付きで釣りが出来るようにする。理想的な条件は一切持ち帰りを認めないキャッチ・アンド・リリースです。でなければ持ち帰りは規定匹数だけ、あとはリリースを義務づける。この場合、その年ごとの回帰数の予想を元に制限匹数を決めることも可能でしょう。

 これによって海に降りるヤマベの数は増えるでしょうから漁業者にとってもプラス。川でサクラマスも釣れるのだから釣り人にもプラス。河川での釣りの持ち帰り匹数を制限するのだから、資源保護にもなる、とは考えられないでしょうか?



釣り人も一緒に考える遊漁管理を

 シロサケやカラフトマスについても、食糧資源として十二分に確保できている現在、今までのような河川での釣りの全面的な禁止は、時代に合わないものとなってきていると思います。また、河口近くでそのほとんどを捕獲してしまうというのも、在来種の魚のあり方として不自然だと思います。標津町の忠類川はシロサケとカラフトマスの釣り(厳密には釣りではなく捕獲調査ですが)が釣り人に大人気で、日本中から釣り人が集まってくるため、観光の点から見ても、また町起こし起爆剤としても、サケマスが重要な資源となっています。たぶん現在では、忠類川のサケマスを捕獲して食糧資源とするより、釣り人に釣らせる方が、はるかに経済的に勝る有効な資源利用法でしょう。

 サクラマス、シロサケ、カラフトマスなどの釣りを、ライセンス制にして釣り人を管理し、捕獲場より上流部を制限付きで解禁して、ライセンス料の収入を増殖に使うことができれば、漁業者にも釣り人にも、そして資源保護と生態系の保全のためにもプラスになるでしょう。

 もちろん実際の運用面ではキャッチ・アンド・リリースで、リリース後どの程度死んでしまう魚がいるかとか、どのように遊魚者を管理するか、などの問題はあるとは思いますが、調査や管理は簡単ではないでしょうが解決の出来る問題だと思います。

 釣りは一つの文化です。文化は時代と共に変わっていくものではありますが、変えるのは文化の担い手である釣り人であって、他から変更を無理に押しつけるようなやり方では、反感を持たれこそすれ、問題の解決に繋がるとは思えません。釣り人の移植放流を今後縮小させていくべきとすれば、釣り人の賛同を得るような縮小方法を、釣り人と共に考えるのが問題解決への正しい道筋だと思います。

 繰り返しますが、釣りのバリエーションを拡げること、在来種の釣りを充実させることが、釣り人が移植放流に頼らざるを得ない現状を変えていく、第一歩だと思うのです。


「北海道・淡水魚保護フォーラム No.3 「ちょっと待った!その移植放流」
(2002年7月6日、川湯観光ホテルコンベンションホール) 講演要旨
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