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第3回北海道淡水魚保護フォーラム

資源管理の基本的なルールを作ろう

永田 光博

永田 光博 (ながた みつひろ)
 
北海道立水産孵化場



 淡水魚ネットでは北海道に生息する在来魚を守ることを最大の目標に掲げ、これまでに2回のフォーラムを開催して賛同の和を広げてきました。在来魚を守るためには魚が生息する環境を保護したり、悪化していれば改善したりといった生態系の保全事業が大事であることは言うまでもありません。しかし、一方で、その魚を利用する人々が在来魚を保護することに対して深い理解を持たなければ、外来種の移植等を通した生物による生態系の撹乱を防止することは困難です。このためには魚が持っている特性を十分に理解することが大切です。特に、魚を直接利用する釣り人等について言えば、どうすれば釣れるかではなく、どうすればいつまでも釣りを楽しむことができるかという方に考え方を大きく変えなくてはなりません。実はアメリカに代表される西欧型の釣りはこの方向転換を早い段階で行い、そして、それを実現するための仕組みを作ってきたのです。今、世界の流れが在来魚の保全へと大きく動き出した時代に北海道の釣り人もこれまでの価値観から脱けだして、自らが資源管理に積極的に参画することが求められています。



釣りの効用は

 魚を利用する人々を目的別に分類すると、経済行為として魚を利用する場合とそうではない場合に大きく分けられます。経済行為としての利用としては当然のことながら(商業)漁業が該当します。これに対して、釣り(遊漁)はそれ自体が収益を求めていませんから経済行為を伴わない方に分類されます。釣り先進国といわれる北米、ヨーロッパで、釣りは自然とのふれあいを通して現代社会が持つ精神的ストレスを緩和する特効薬として重要な意義をもつだけでなく、経済的な競争原理が働かないため、資源を枯渇させる危険の少ない自然にやさしいレクリエーションと考えられています。しかし、乱獲を起こさせないレクリエーションであることを証明した事例はほとんどなく、それどころか商業漁業以上に乱獲の可能性があるとの事例がアメリカの雑誌に紹介されています。河川に生息する魚は無作為に分布しているのではなく、ある決まった場所(例えば淵)に集中して生息している場合の多いことは釣り人ならば良く知っていることでしょう。このような場合、魚が少なくなるとその場所を集中的にねらうため、釣獲率(資源量に対する釣獲数の割合)の減少が数字となって表れにくいケースが多いと報告されています。そして、ほんとうに釣れなくなったときには回復不可能な危機的資源状態になる可能性のあることも指摘されています。このように、釣りは精神衛生上極めて有効なレクリエーション資源でありながら、一方で個人プレーであるため客観的な判断が難しく、情報の開示が少ない場合には歯止めがかけにくい行為でもあると言えます。



資源管理とは

 魚は他の生物と同様に自律更新(再生産)可能な資源と定義されます。例えば、親世代が生む子供の数が、その子供が親となって生む子供の数と同じであれば、資源は安定していることになります。しかし、子供世代の数が何らかの理由で減少し、親となって産卵できる数が前世代よりも少なくなった場合資源は減少することになります。子供の数が減る原因については大きく二つ考えられます。一つは自然生態系の変動によるもので、例えば餌や生息環境が不適となり、これまでと同じ数を支えることが不可能になるような場合です。サケマス類の資源量も北太平洋の海洋環境の変動で30-40年周期で増えたり、減ったりしていると考えられています。もう一つは人間が関与する場合です。間接的影響としては、ダム、森林伐採、河川改修等による生息環境の悪化や競合種、捕食種の移入による餌環境の悪化や被食減耗の増大等が考えられます。直接的な影響としては、漁業や釣りによる獲り過ぎ(乱獲)が原因で十分な親魚数が確保できなくなる場合があります。

 資源管理とは魚の資源状態を診断し、減る恐れがある場合は規制等の手段で原因を排除して治療し、健康な資源状態を維持するための仕組みと言えます。今回の話は釣りによる直接的な影響の部分に焦点を当てたものです。

①一定量の産卵親魚を確保する方法
 この中にも再生産関係(親と子の関係。川の中の親魚たちが自力で子孫を残すこと)を前提として一定の親魚量を確保する方法から、その時その時の資源の状態に合わせて確保する親魚量を変動させる方法まで色々な考えがありますが、いずれにしても生物情報や定量化された漁獲統計等の収集が必要になります。

 北米の河川で行われている釣り資源の管理方法はこのような親魚の確保を目的として行われています。ここではアラスカ州で行われている二つの方法を紹介します。一つはアラスカ最大のマスノスケ資源を支えているキナイ川での資源管理手法で、過去の再生産関係から最適な産卵親魚数が決定されており、その目標値を基準として釣り資源の管理を実施しています。遡上資源量は計量魚探により把握し、釣りの釣獲量、リリース量はフィールド調査で把握します。この差が目標値に達すれば釣りの規制を緩和し、達しなければ規制を強化します。これは最も効果的な手法と考えられています。しかし、この資源管理には毎年3500万円の経費が必要で、これら経費の25%は釣りライセンス料から、残り75%は釣り人が釣り道具等を購入の際に支払う目的税から支出されます。つまり、釣り人が自らの経費で管理しているのです。 しかし、全ての河川をこのような手法で管理するのは不可能です。そこで、もう一つの方法が行われています。それはメール・サーベイ(郵便調査)です。釣り人が釣りをするためにはライセンスが必要です。取得のためには料金と住所氏名等の個人情報を登録しなくてはいけません。この個人情報が資源管理に威力を発揮します。シーズンが終了するとアラスカ州政府は無作為に抽出した釣り人に調査書を送ります。それには釣りの回数、場所、魚種、釣獲数、リリース数等の質問があり、回収できるまで3回実施されます。その結果を統計的に処理することで地域毎、魚種毎の釣獲数等の貴重な情報が手に入ります。これらの情報は全て報告書として開示されますので釣り人は知ることが出来ます。これを過去のデータと照合し資源の減少が著しい場合は漁業委員会へ規制の強化を要望し、公聴会等の審議を経て規制の是非が決定されます。この見直しは基本的には4年に1度実施されています。

 一般に、日本ではライセンス制度の目的は規制の徹底と管理、運営経費の捻出のためと考えられていますが、実は最大の目的はこういった釣獲データの蓄積にあったというわけです。

②経験的な方法
 漁獲統計等の情報がないなかで、話し合いや経験的な資料に基づいて一定の漁獲量やルールを決めて管理する考えです。しかし、この方法は資源の状態に無関係であるため余剰資源が発生した時にはそれを活用できないばかりか、資源が枯渇している時には逆に乱獲になってしまう可能性が非常に高い方法です。内水面漁業協同組合が釣りを管理する方式はこのタイプが多く、いなくなったら放流すれば良いという安易な管理方法に流される傾向も強いことから、在来魚の保護の観点からは問題の多い方法と言えます。ただし、この方式にしても釣獲量のデータが収集できていれば、その結果に基づいて親魚量を確保するための管理も可能でしょう。


サクラマスの事例紹介
 海外の事例だけを紹介しても必ずしもイメージが湧かないでしょうから、北海道の川釣りとしては代表格であるサクラマスについて、ちょっと考えてみましょう。サクラマスは秋に川の上流や支流で産卵し、春に浮上した稚魚はサケと違ってそのまま川で成長します。この時期に雄の一部で成長の早いグループは成熟を開始し、秋には産卵に参加します。これ以外の雄と雌のグループ中にも成長の早いグループと遅いグループができ、早いグループは翌春に銀毛ヤマベ(スモルト)となって海へと旅立っていきます。そして、遅い成長のグループはもう一年川で過ごし、その間にまた雄の一部は川で成熟し、それ以外は銀毛ヤマベとなって再び春に海へと下っていきます。河川で成熟する早熟雄ヤマベの中でも数年過ごした個体は30cm前後にまで成長し「尺ヤマベ」ともいわれていますが、近年は釣獲圧力が高いためか、そこまで成長できる個体は極めて少ないのが現状です。海に下ったサクラマスは夏をオホーツク海で過ごし、冬の前に北海道南部付近まで南下し、そこで越冬した後、春には再び生れた川の沿岸に戻り、主に4~6月に川へ遡上します。そして、川の中で秋まで過ごして産卵して一生を終えます。

 北海道立水産孵化場ではこの魚の生命表作りをしています。生命表とは生れてから死ぬまでの間、各発育段階毎にどのくらいの数が減少するかを示したもので、まさに資源管理をする上でベースになる資料と言えます。ここでは、釣りの影響がまったくない保護水面河川で、かつ野生魚しか生息していない厚田川を例として示します。厚田川の支流左股川には雄雌合わせて412尾(雌286尾)の親魚が遡上し、552,000粒の卵を産みました。卵から浮上し新仔となって7月頃までに生き残る率は6~24%で平均は14.5%と考えられました。そうすると、生き残った幼魚の個体数は80,000尾程度となります。この幼魚の10月(越冬前)までの生残率は非常に高く95%程度です。一方、越冬後から銀毛ヤマベまでの生残率は厚田川ではデータがなく、道南日本海の突符川の例では47%となっています。そうすると36,000尾が春に生き残ったことになります。この内、雄の30%が早熟ヤマベとなるとすると、31,000尾が銀毛ヤマベと考えられます(ここでは全ての魚が翌春に下ると仮定しました)。海に下った野生のサクラマスが川に遡上する割合についてのデータはありませんが、暑寒別川での放流魚では1%前後と推定されています。この値を用いると310尾が遡上すると考えられます。おそらく、野生魚の場合はもう少し生き残りが高いと考えられていますから、親の数とほぼ等しい数が子の代に遡上していることになります。今、北海道でも野生魚が多く生息し、また河川環境も良好と考えられている厚田川ですら、現状の生命表を見る限り、余剰量はほとんどないと考えられます。こういった状況を前提にして一般河川での釣りの状況を検証してみましょう。

 北海道立水産孵化場は当別川でサクラマス幼魚の釣獲量調査を実施しました。調査は一定期間毎に投網と電気ショッカーで川の幼魚の資源量を推定する方法とアンケートを主体として釣獲尾数を推定する方法を併用しました。その結果、資源量調査からは6月から10月まで減少率は97%と考えられまいた。一方、釣り人の釣獲量は14,219尾で、6月の資源量21,874尾を100%とすると、65%がこの間に釣りより減少したものと推察されました。このような釣り人の情報から釣獲量を推定した試みはほとんどなく貴重な結果と言えます。釣りが規制されていない河川では65%のサクラマス幼魚が釣りによって減耗していると考えられます。厚田川では同じ期間の幼魚減耗がわずか5%程度ですから、この差は歴然としています。現在規制のない一般河川ではこれと同じ状況が起こっていると考えるべきです。この状態を放置しておいて、サクラマスを再生産可能な資源とはとても言えません。

 加えて、近年海でのサクラマス釣りも盛んになっており、実態が不明のままでは対策も施せないことから、平成10年度と11年度に胆振管内だけを範囲とした釣獲量調査を実施しました。それによると、おおよそ5万~6万尾を釣獲しているとの実態が見えてきました。この結果をもとに平成12年度からライセンス制(一人10尾ノルマ)が開始されています。これにより、胆振管内の全ての釣獲数は遊漁船から報告されることになり、日本で初めてサクラマスの釣獲実態が統計資料として表に開示されることになったのです。このシステムはさらに渡島、桧山、後志に拡大する必要があるでしょう。ちなみに、漁業者が利用しているサクラマスの漁獲尾数は40万~50万尾ですから、海釣りは決して無視できる量ではないと言えます。

 最近、心配なことがもう一つあります。河口や下流域で、アメマス釣りの混獲魚としてサクラマスが利用されていることです。残念ながら、その実態はまったく不明です。もちろん河川内でのサケマス親魚の釣りは禁止ですが、このように他の魚をねらって釣られるものについては不可抗力と考えられます。もちろん、再放流してもらうわけですが、サクラマスは銀毛状態で遡上しますので、ウロコが剥がれやすく、わずかな皮膚や口の損傷から細菌が侵入し、水生菌が繁殖して死亡する可能性が高いと言われています。



資源管理のルール化に向けた行動

 サクラマスの資源状態を資源管理のルールに従って診断すると、再生産資源が確保できない状況にあるわけですから重症と言えます。つまり、今すぐにでも処置しなければいけない資源となります。そこで、考えられる治療法としては内科的手法(生息環境の改善等)と外科的手法(釣りの規制等)が考えられますが、緊急性から考えると外科的処置を取ることになります。例えば

① 新仔釣りの全面禁止(スモルト加入量を増大させる)
② 親魚遡上期の河口や下流域での釣りの全面禁止(産卵親魚の確保)
③ 海面ライセンス制の全道域への拡大(尾数ノルマの徹底と釣獲実績の把握)

しかし、釣り人が「魚がいなくなったら放流すればよい」、「キャッチ&リリースなら問題ない」等という考えを持っているとしたら、これら外科的手術も実効性に疑問が残ります。再生産可能な資源である魚を利用する術を学ぶこと、そして、そのためには、まずこの状況を認識し、さらに釣獲量を数字として把握してそれを開示し、釣り人自身がその結果を真正面から受け止めることから始める必要があります。そこで、次のような仕組みが提案できます。

① 再生産可能な資源である魚と付き合っていくことを最大の目標とした釣り人の組織をつくる(緩い連合体でもかまわない)。

② 組織化された集団が資源管理の戦略や戦術を作り、実行する。
 ・ 釣獲実態を把握する仕組みをつくる。
 ・ 利用法(ゾーニング)による資源区分をつくる。
 ・ 在来魚保護のための環境保全策を提案、実行する。
 ・ 運営資金を確保するための仕組みをつくる。

このようなことが、実効性のある資源管理をするために必要と言えます。

 1998年に北海道立水産孵化場はサクラマスフォーラムを開催しました。この時の基調講演者はフィッシングキャスターの西山徹さんでした。その後西山さんは重い病に倒れ、永眠なされました。西山さんには北海道の釣りへの思いを1時間以上にわたって話していただきました。彼は「北海道にはサケ、サクラマスもいればアメマスもオショロコマもいる。なんで、外来魚が必要なの」と嘆き、「こんなに釣り人がいて、そりゃ釣ったらいなくなるくらいのこと分かるでしょう。だったら、工夫してくださいよ。」とため息交じりに私に言っていたことを思い出しています。

 私が一番危惧しているのは釣り人に任しても結局駄目だと判断された時、水産の立場を通り越して、生態系保全の立場から釣り人が完全にシャットアウトされてしまうということです。これは絵空事と思うかもしれませんが、北米では現実的な問題となっているのです。この最悪のシナリオを排除するためにも、釣り人が資源管理を考える時は過ぎたと思っています。今は、釣り人自らが資源管理のための組織を作って、そして具体的な行動を起こす時なのです。我々はその行動を応援します。


「北海道・淡水魚保護フォーラム No.3 「ちょっと待った!その移植放流」
(2002年7月6日、川湯観光ホテルコンベンションホール) 講演要旨
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