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第1回北海道淡水魚保護フォーラム

浦和 茂彦


浦和 茂彦
 (うらわ しげひこ)
 さけ・ます資源管理センター遺伝資源研究室長、札幌市在住

[主な著書]
 ■『魚病学概論』 恒星社厚生閣(共著) (1996)

[最近思うこと]
 ■さけ・ます類の遺伝的多様性保全方法の構築
 ■日本系さけ・ます類の沖合回遊経路の解明
 ■海洋におけるさけ・ます類資源と生産力のモニタリング



 近年、地球規模で保全の必要性が指摘されている生物多様性は、『遺伝的多様性』、『種多様性』、『生態系多様性』、および『景観(生態系の集まり)多様性』の4レベルの生物階層より成る概念です。生物多様性保全の実際的な目標は、『種を絶滅させない』ことだと思いますが、種を絶滅させないためには、4つの階層すべてで種をとらえ保全する必要があります。ここでは生物多様性の基礎をなす遺伝的多様性の保全の必要性について話題提供いたします。



 生物種は遺伝的に均一ではなく、例えば人間の瞳(ひとみ)や毛髪の色、鼻の高さなどに見られるように、同一種内でも個体間に遺伝的な違いに起因する多様性がみられます。魚類も例外ではなく、その遺伝的多様性は哺乳(ほにゅう)類よりも高いと考えられています。特に、さけ・ます類は強い母川回帰性(産卵のため生まれた川に帰る性質)をもつことから、遺伝的に異なった地域あるいは河川集団を形成し、それぞれの集団は、地域環境に適応した遺伝的特性(例えば産卵時期や降海時期など)を備えています。また各集団内の個体間にも高いレベルの遺伝的変異がみられます。つまり、さけ・ます類は、(1) 各集団間の遺伝的違いと、(2) 集団内に保有する遺伝的変異、により種内の多様性を高度に維持していると考えられます。これら遺伝的多様性は、生物進化の源となるものであり、地球温暖化などによる生息環境の変化や新たに持ち込まれた病原生物に対する適応性を高めるなど、種が存続するために必須(ひっす)のものと考えられています。従って、種を存続させるには、個々の集団が持つ遺伝的固有性や変異性を保全することが重要になります。



  日本産さけ・ます類の中で、特にサケやカラフトマスは多くが人工増殖により再生産されています。この増殖技術により毎年多くのさけ・ます類が回帰するようになり、沿岸漁業に貢献すると共に、さけ・ます類を比較的安価に購入できるようになりました。しかし、人工増殖事業の長い歴史の中で、『減少した資源を増やすため』に遠く離れた河川間でさけ・ます類の移殖放流が無秩序に行われた時期もありました。前述のとおり、さけ・ます類は河川あるいは地方ごとに分化しているので、異なる地域に由来する個体を放流すれば、在来集団特有の遺伝的多様性を失うことにつながります。さけ・ます資源管理センターでは、現在残っている地域集団を特定する調査を行い、これらの地域集団を保全するために、遺伝的に異なる河川集団間での移殖放流は行わないことにしました。また、ふ化場で人工受精を行う際には、人為的選択を避け、なるべく多くの親魚を使うことにより多様性の減少を防ぐように努力しています。さらに、主要な河川集団の生物モニタリングを毎年行い、回帰親魚の年齢構成や体サイズ、遺伝的固有性や変異性などの変化を監視しています。



 さけ・ます類は、食料資源として産業的に重要であるのに加え、遊魚や観光あるいは自然教育素材としても注目を集めています。北海道の豊かな自然生態系の中で、さけ・ます類資源を維持しながら有効利用するため、多様性の保全に配慮したふ化放流を行うと共に、河川生息環境を改善して在来魚の自然産卵を助長するなど総合的な保全策を模索する必要があります。

「北海道の淡水魚を守る 外来種が在来種および自然生態系に及ぼす影響」
(2001年1月20日、千歳市民文化センター)講演要旨
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