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第1回北海道淡水魚保護フォーラム

最近、思うこと
帰山 雅秀

 帰山 雅秀 (かえりやま まさひで)
  北海道東海大学工学部海洋環境学科教授、札幌市在住

 [主な著書]
  ■「ベニザケの生活史戦略-生活史パタンの多様性と固有性」
   (『川と海を回遊する淡水魚』 東海大学出版会 (1994))
  ■「サケの回遊の謎と外洋での生活」
   (『動物たちの地球』 朝日新聞社 (1993))

 [最近思うこと]
  ■北海道における野生サケのリカバリーと在来魚の保護
  ■放流魚が北太平洋や陸水域の生態系と野生魚に及ぼす
    生態学的影響


 最近、こんなことを考えています。

 人工的に生産され増加した魚類が様々な形で自然生態系や野生魚類群集に影響を及ぼしています。人工ふ化放流された日本系シロザケ資源は、1996年をピークに2000年まで4年連続減少傾向を示しています。今後は、長期的な気候変動から判断して、大量のふ化場魚が放流される一方で、サケ属魚類の環境収容力と海洋初期生活期の生残率が低下することが予測されます。これまで、日本系シロザケは放流数の増大に伴い小型化高齢化という個体群密度効果の現象を示してきました。これらのことは、環境収容力の減少はふ化場魚の増加に起因する個体群密度効果の促進が同所的に分布する野生魚の成長、生残率や繁殖形質(孕卵(ようらん)数と卵サイズ)にも影響を及ぼす可能性を含んでいることを示唆しています。

 母川へ産卵回帰して自然繁殖後に死亡するサケ属魚類(サケ類)は、昆虫、鳥類、哺乳(ほにゅう)類などの他生物に餌(えさ)生物として利用され、有機物や栄養塩に分解されることにより陸水域生態系における物質循環(海洋起源エネルギー・栄養塩類供給)の役割と生物多様性(餌資源供給)の維持に貢献しています。例えば、イリアムナ湖では湖沼の栄養塩の制限因子であるリンの60%がベニザケ産卵魚により供給されています。しかし、自然繁殖の機会を奪われた人工ふ化放流魚はそのような物質循環の系を断ち切り、流域生態系の生物多様性を損なう結果となっています。

 湖沼などの陸水域で魚類の資源管理を行う場合、物理環境や種内の個体群動態の掌握と同様に、他魚種との種間関係は重要な評価要因の一つです。近年、琵琶湖のブラックバスや支笏湖のブラウントラウトなどのように、外来種が湖沼の在来種や生態系に著しい影響を及ぼす例が報告されるようになってきました。また、なわばりへの進入、無秩序な攻撃行動など社会関係が未熟で、自然環境への適応能が低い孵化場魚が淡水生態系や在来魚へ及ぼす群集生態学的影響が問題視されています。

 これからは、人類が食糧の生産活動としてきた人工ふ化放流やスポーツフィッシングのための遊魚放流が生物多様性と生態系に及ぼす複合的相乗効果とそのメカニズムの解明をはかるとともに、野生集団の回復、野生魚と孵化場魚との共存プロセス・モデルおよび外来魚に対する生態系保全と在来種保護のバイオ・マニュピレーションの策定につとめていきたいと思います。

「北海道の淡水魚を守る 外来種が在来種および自然生態系に及ぼす影響」
(2001年1月20日、千歳市民文化センター)講演要旨
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