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第1回北海道淡水魚保護フォーラム

平田 剛士


 平田 剛士
 (ひらた つよし)
  フリーランス記者、滝川市在住

 [主な著書]
  ■『北海道ワイルドライフ・リポート』 平凡社 (1995)
  ■『エイリアン・スピーシーズ』 緑風出版 (1999)

 [最近思うこと]
  ■釣り人による生物多様性の保全運動
  ■絶滅危機種イトウのマネジメント


◇ 「エイリアン・スピーシーズ」って何?

 外来動物、帰化動物、移入生物、そしてエイリアン・スピーシーズ......。こうした名前はどれも、きょうこれからパネルディスカッションで話し合われようとしている「問題の生き物たち」の呼び名です。でも、どれも同じ意味かというと、そうではありません。 帰化動物や外来種というのは、かなり古くから使われて、なじみ深い用語でしょう。「外来」という字面からは、ある場所にどこかよそからやってきた生き物だ、ということが分かります。「帰化」という言葉からは、やってきた先の場所に完全に居着いた、というニュアンスも伝わります。

 でも、これらの言葉は最近はあまり使われなくなりました。帰化とか外来とかの言葉は、その生き物が何故ここにやってきたのか、その理由や過程のことはあまり問題にしていないからです。自然状態でも、生物の移動はありふれた現象です。生物にとって、風に乗ったり海を渡ったり、ほかの生物の体にくっついて長距離を移動したり、というのは、新しい生息地を見つけて分布を広げるときの大きなきっかけなのです。 そうした自然に起きる生物移動を、人間がとやかく言う必要はありません。しかし、人間が持ち運ぶケース、つまり「移入」する場合は別です。

 移入種という用語には、人間が運び込んだ、という意味づけがされています。英語ではエイリアン・スピーシーズ(alien species)とか、インヴェイシヴ・スピーシーズ(invasive species)、最近まとまった国際自然保護連合のガイドラインでは、ふたつ重ねてエイリアン・インヴェイシヴ・スピーシーズと呼んでいます。



◇ どんな悪影響があるの?

 移入種とは、人が持ち込んだ生物のことを指す言葉だ、ということをお分かりいただけたと思います。そうすると、もし移入種が、何か「悪さ」を始めたら、それは根本的には持ち込んだ人間に責任がある、ということです。

 移入種たちは具体的にはどんな「悪さ」を起こしているのでしょう。

 98年夏に訪れた小笠原諸島の媒島(1.6平方キロ)では、陸地は文字通り丸裸で、雨のたびに表土が削れて赤土が海に流れ込み、サンゴ礁を死滅させている状況でした。家畜のヤギが野生化して約500頭まで増えて、植物をあらかた食い尽くしてしまった結果です。

 沖縄島では、爬虫(はちゅう)類の「ハイブリッド化」が起きていました。琉球列島は固有種の宝庫のような場所ですが、あちらの島からこちらの島へと無神経に生き物を移した結果、種が異なるのに、交尾して子供が産まれているのです。リュウキュウヤマガメとヤエヤマセマルハコガメのハイブリッド(交雑個体)は、見事に両方の体の形状を表していました。しかも、この子どもには繁殖能力があるらしい。こうなると進化の歴史はもう台無しです。

 それからブラックバスやブルーギル。京都市内の深泥池では、70年代末にこれらの移入種が現れて、これまで約20年間にカワムツ、オイカワ、カワバタモロコなど7種の在来種が絶滅し、水生昆虫も激減しました。水質などほかの環境条件は変化がないので、在来種が移入種との競合に負けた結果だと断定されています。

 その地域固有の生態系がどれだけ豊かに残っているか、専門的には生物学的多様性という概念でとらえますが、川をコンクリートで固めたり、湿原を乾燥化して農地にしたり、そういう物理的な破壊行為とまさに同じレベルで、移入種は生物学的多様性をひどく低下させてしまうのです。



◇ 根絶はむずかしい

 移入種問題の深刻さをご理解いただけたでしょうか。その責任は私たち人間にあります。では、移入種問題が起きてしまった場所で、私たちはどう責任をとりうるでしょう。

 国際自然保護連合が最近、そのためのガイドラインを作りました(http://www.issg.org/)。移入してしまった種に対しては、各国政府が責任をもって完全に撲滅するよう、強く求めています。

 でも、一匹残らず見つけだして全部殺すというのは、口で言うほど簡単ではありません。

 ニュージーランドはこの分野の先進国です。そのNZでさえ、たとえばオポッサム(フクロギツネ)を撲滅するのに多額の予算を注ぎ込みながら、根絶どころか、まだ7千万匹も生息しているといいます。とにかく殺し続けて、これ以上増えないようにするのが精一杯、というのが現状です。

 奄美大島では2000年秋から、環境庁がマングースの撲滅に乗り出しました。これまで5年くらい、マングースの奄美での生態を調べて、推定約1万頭と生息数をはじき出し、一匹あたり2200円の報奨金を用意していますが、森の中にすむ小動物ですから、確実に撲滅できるかどうかは、やってみなければ分かりません。



◇ 市民の自覚、行政の役割

 とはいえ、日本では撲滅作戦はほとんど始まってもいません。少し厳しいことをいいますが、移入種問題の責任は人間にある、という自覚が、日本人には足りないのではないでしょうか。

 たとえば「ブラックバス論争」というのが続いています。しかし本質的とは思えません。バス(釣り)の好きな人が「バスを殺さないで」という、それは当たり前のように見えますが、そういう人たちは、生物学的多様性の保全の意識とか、在来生態系への悪影響のことを理解したうえでなお「バスを殺すな」と主張しているとは、思えないのです。

 生物学的多様性に対する移入種の脅威というテーマは、魚釣りとかペットとか、それぞれの抱く個人的な欲望のレベルを越えて論じ合わなければならない「社会問題」です。

 まずはそのことを大勢の人が自覚することから始める必要があります。確かに複雑で面倒な問題ですけれど、このことを避けていてはせっかくの議論も上滑りするばかりです。

 その段階を経て、共通の基盤に立てばおのずと道は見えてきます。個人でできること、制度や法律によってコントロールしていくこと、それぞれ役割がハッキリしてくるでしょう。

 すでに専門家の間では、さきほどの国際自然保護連合のガイドラインを含め、さまざまな提案がされています。今後は市民がそうした情報に自由にアクセスし、地域での実践の参考にできる環境を実現して、移入種問題に対する私たちの責任というものを果たしていくべきです。

 時間はあまりありません。きょうのパネルディスカッションをひとつのきっかけに、そういう動きが加速されることを期待しています。


「北海道の淡水魚を守る 外来種が在来種および自然生態系に及ぼす影響」
(2001年1月20日、千歳市民文化センター)講演要旨
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